ヨーガ本家のインドで進行中のヨーガ改革

ヨーガの歴史は古く、その考古学的起源はインダス文明、またインド神話へも遡ります。そしてインドの伝統文化の中で心身統合・精神統一を目的とした精神的修行法として様々な形で継承されてきました。1920年代には西インド・マハーラーシュトラ州のロナヴァラにカイヴァリヤダーマ・ヨーガ研究所を設立したスワーミー・クヴァラヤーナンダの学術的研究への取り組みによりヨーガが一般社会で認知され保健医療・教育分野に浸透していくプロセスが始まっていきました。 
1960年代以降、ヨーガはある種の神秘性を纏いながら諸外国へ伝搬されて行き、日本にも1960年代からヨーガが紹介されて来ました。日本では1990年代にヨーガが絡む大きな社会的スキャンダルによる停滞がありましたが、ヨーガへの期待と根強い関心は衰えず、近年ヨーガは老若男女に親しまれ、研究/医療/教育分野へも拡がりが見られています。
 
しかし、元来ヨーガはインド宗教文化の無限とも言える多様性の中にあり、誤解や混乱も生じやすい分野でした。特に理論や技法の公的/学術的な基準の欠如が、ヨーガの常識的な理解や社会的受容への障害になっていました。
 
ヨーガ本家のインドでは、インド国外でのヨーガの恣意的な解釈や行き過ぎた商業化、またインド国内でのヨーガへの関心の高まりから、2008年に国立ヨーガ研究所(MDNIY)主導によりインド・ヨーガ協会(Indian Yoga Association)という業界団体を結成、ヨーガのガイドラインを策定する作業へ着手しました。2014年にはインド人民党(BJP)政権が成立し、首相にナーレーンドラ・モーディー氏が就任。インドの伝統文化に根差した叡智を現代の保健医療・教育分野へ導入する動きが官民一体で進められています。
 
2015年に国連で「6月21日」が「国際ヨーガ・デー」として制定されたことに合わせて、
国立ヨーガ研究所から一般向けに規格化されたヨーガ実習プログラムである「ヨーガ・プロトコール(Common Yoga Protocol)」が公開され、同時にインド政府AYUSH省でQCI(Quality Council of India/インド品質協会)が策定したヨーガ教育能力検定制度が導入されました。2017年にはAYUSH省からヨーガの公式ガイドブックが出版、2018年にはQCI からYCB(Yoga Certification Board/ヨーガ教育委員会)に検定試験の運営が移行し、インド・ヨーガ協会提携校を中心にYCB試験に準拠したアカデミックなコースの再構築が進んでいます。並行してインド国内の各大学にヨーガ学科の新設が推進されています。
 
2021年6月21日の第7回国際ヨーガ・デーにはWHOとAYUSH省の共同制作によるヨーガ学習用アプリ『WHO mYoga』もリリースされました。WHO(世界保健機構)からヨーガ・トレーニング・プログラムの国際基準となるベンチマークが公表される予定です。
現在日本国内でも6月21日の「国際ヨーガ・デー」が認知され、各地でイベントが開催されていますが、「ヨーガ・プロトコール」の内容や実習、インド政府主導のヨーガの規格化/資格化であるYCBヨーガ教育能力検定試験が日本でも運営されていることへの認識は低い状態です。日本でも安心安全なヨーガ活動が持続的に発展し、ヨーガによる恩恵が広く提供されて行くには、公的なヨーガの知識をインド伝統文献及び健康科学の視点で確認して行くことが公益と言えます。 2023.02.12